講談「赤穂義士伝」が12月13日、日本酒サロン押上文庫(墨田区押上3)で上演された。赤穂浪士の討ち入り前夜に当たるこの日、墨田区と縁の深い演目が語られ、来場者は言葉だけで情景を描き出す講談の魅力に耳を傾けた。
当日は講談師の旭堂南文字さんが登壇し、「赤穂義士銘々伝 堀部安兵衛の駆け付け」「赤穂義士外伝 八百屋甚兵衛」「赤穂義士銘々伝 間十次郎 向島の雪の子別れ」の3席を披露した。
12月13日は、1702年に赤穂浪士が吉良邸へ討ち入りを果たす前夜に当たる。吉良邸があった本所松坂町(現在の両国周辺)では毎年「義士祭」が行われるなど、墨田区は赤穂義士とゆかりの深い土地として知られる。
講談は、張り扇で釈台を打ちながら、歴史や人物の物語を語る日本の伝統話芸。話し手の声とリズムによって情景や人物像が立ち上がり、聴き手は言葉から場面を想像しながら物語を味わう。
南文字さんは2014(平成26)年、落語を聴きに行ったことをきっかけに講談の世界に入った。元トラック運転手という異色の経歴を持ち、師匠は上方講談の第一人者とされる旭堂南右衛門さん。「講談を通じて、みんなが知らないけれど面白いものがたくさんあることを知ってほしい」と話す。
赤穂義士伝については、「勧善懲悪や武士道、礼儀といった価値観が描かれているが、武士道とは単なる厳しさではなく、優しさや思いやり、コミュニティーを大切にする心でもある。昔の話としてではなく、日本人がもともと持っているものを思い出してもらえたら」と南文字さん。