アートを通じて墨東エリアの魅力を再発見する計画「墨東まち見世」による、街中を舞台にした企画「100日プロジェクト」の成果発表イベントが現在、開催されている。向島学会と東京都、東京文化発信プロジェクト室(東京都歴史文化財団)の3者が共催。
「京島たから広場」では京島向島路地園芸術祭 × lat/long project コラボレーション作品を展示。
同プロジェクトでは本年度、場所の特性を生かし地域の歴史や人とのコミュニケーションからインスピレーションを受けたインスタレーション制作で知られる谷山恭子さんを招聘(しょうへい)した。作品名は「lat/long-project I’m here.ここにいるよ。」
同作品は、地上に無数にある緯度・経度(lat/long)の交点のうちから、小数点以下のないクロスポイント(日本ではおよそ南北30メートル・東西25メートルに一つ)を探し出し、そこに存在する樹木や花、建造物などを、さまざまな表現方法で「祝福」するもの。谷山さんは昨年5月の連休中、東日本大震災で被害を受けた石巻でボランティア活動をしたことがきっかけで、緯度・経度に興味を持つようになったという。
「全てが破壊しつくされた町では、もともと住んでいた人でさえ、自分が今どこに立っているのかを見失いそうになっていた。私自身も何か確かなものにすがりつきたい気持ちで思い当たったのが緯度・経度という、普遍的でニュートラルな数字の情報。それ以来、自分の足元を再確認するようにGPSで計測するようになり、きりの良いクロスポイントを見つけると、そこに偶然あるものに目を留めるようになった。そこから、日常に感謝し、いつもと変わりない日々を祝福するようなこのテーマで作品制作を思いついた」と谷山さん。
プロジェクトは2011年12月10日にスタート。谷山さんは参加者と共にGPSロガーを手に墨東エリアを何度も散策してクロスポイントを計測。会議を重ねて、見つけたポイントに対するプランを練り、地域の人々の助けを得ながら実現に向けて交渉に当たった。制作や展示準備に関してもボランティアが参加し、そのプロセスはブログなどでも公開した。
完成した作品は墨東エリア内12カ所に点在。「京島 たから広場」(京島3)では冬枯れの鉢植えに同ポイントの緯度・経度をスタンプしたリボンを結んで花が咲いているように演出。「喫茶亭 浮浪(はぐれ)雲」(東向島4)ではカップ&ソーサーに、「玉ノ井カフェ」(東向島5)ではティーポットに緯度・経度を印字。創業80年の「和菓子司 埼玉屋」(東向島5)では緯度・経度を焼き印した特製のどら焼きを販売。「玉屋洋服店」(八広1)では道路に面したショーウインドーに陳列してある全ての服にピンク色のちょうネクタイを結んだ。
「墨東まち見世」の事務局がある現代美術製作所(墨田1)では作品の一部を再現展示しているほか、各プラン実施までの経緯を紹介。全地点を示した大きな地図も用意し、成果発表の拠点となっている。ポイントの一つである「京島郵便局」(京島3)の緯度・経度が印字されたはがきも置き、期間中にこのはがきを窓口に持参すると、通常は押されることのない同局の消印が受けられる企画も用意する。
3月10日には成果発表イベントの一つである「lat/longを巡る100日プロジェクトさんぽ」を実施。谷山さんの案内で参加者十数人が京島~八広~東向島にある作品を鑑賞。休憩所として立ち寄った「BUNKAN 珈琲の樹」(京島3)では、豆の産地(農園)名を伏せて緯度・経度をヒントに選ぶ5つの「おすすめコーヒー」を楽しむ企画も行われた。
14日には「宮元公園」(文化2)の滑り台と「東向島 ふじ公園」(東向島2)にある藤棚の柱を、区役所の許可を得てそれぞれ作品としてペンキで着色し、緯度・経度を書き込むプランが実行され、その様子はフェイスブックなどにアップされた。
「公共の施設も民間の店舗も含めて、12カ所も作品プランが実現したことは自分でもうれしい驚き。私の話を聞いてくれた店の方や、間に入って交渉してくれた地元の方にとにかく感謝したい。何より、計測に付き合ってくれたことに始まり、最後の細かい作業の一つ一つをサポートしてくれた皆さんにお礼を言いたい。100日間に起きた全てのプロセスが今回の作品そのもので、いろいろな人との出会いがこのプロジェクトの醍醐味(だいごみ)だった」と谷山さん。
成果発表イベントは今後、17日・18日に「lat/longを巡る100日プロジェクトさんぽ」(別コース)や「クロストーク~まちとアートの交点を探る~」(現代美術製作所)、「クロージングライヴ」(墨田聖書教会)などが予定されている。