すみだ経済新聞では、「ひと つながる 墨田区」を象徴する企画として、地域で活躍するキーパーソンへのリレーインタビュー「すみだ活性化のキーパーソンが語る『墨田と私』」を展開しています。
今回は、墨田区で観光まちづくりの中核を担う墨田区観光協会・森山育子理事長にインタビュー。観光庁から東京都初のDMO(観光地域づくり法人)に認定された同協会のこれまでの歩みと、墨田区を「日本観光のハブ」として育てていく未来構想について、お話を伺いました。
【前編】
墨田区を観光のハブに 墨田区観光協会・森山育子理事長に聞く(前編)
観光は、ただの「名所巡り」では終わりません──。観光を通じたまちづくりを掲げ、東京都で初めて観光庁の「DMO(観光地域づくり法人)」に認定された墨田区観光協会。理事長の森山育子さんに、DMOとしての取り組みや、「まちごとテーマパーク」という構想の背景を聞きました。
墨田区観光協会とは──観光をまちづくりに生かす組織
「観光協会」と聞くと、パンフレットを配ったり観光案内所を運営したりする団体というイメージを持たれる方が多いかもしれません。しかし、墨田区観光協会は、その枠をはるかに超えて、まちづくりの中核を担う存在です。
墨田区観光協会は、一般社団法人として設立された自立した地域団体です。行政だけでなく、地元の商店や企業、町会、そして住民一人ひとりと連携しながら、「観光」を通じて地域全体をより良くしていくことを目指しています。
観光協会の役割は、外から観光客を呼び込むことだけではありません。地域の暮らしを豊かにすることにもつながります。たとえば、銭湯や商店街、町工場など、地域の人々にとって当たり前の日常も、観光の視点で見直すことで、新たな魅力として発信することができるのです。
こうした取り組みの中で、墨田区観光協会は観光庁から「DMO(観光地域づくり法人)」としての登録を受けています。DMOとは「Destination Management Organization(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)」の略で、地域の観光資源を見つけ出し、どう生かすかを考え、観光を通じてまちづくりを進める“司令塔”のような存在です。
もっとわかりやすく言えば、地域の魅力をどう伝えていくかを考え、観光客を受け入れる準備を整える「まちの作戦会議チーム」のようなものです。DMOの取り組みは、観光を地域の課題解決や経済活性化につなげるための土台となっています。
現在、東京都でDMOに認定されているのは墨田区と天王洲アイルの2カ所のみで、墨田区はその第1号です。つまり、墨田区は東京都における観光まちづくりの最前線を走っているのです。
DMO制度の認可を受けるには、地域全体の合意形成と、戦略的なビジョンの提示が必要です。単なる観光案内業務だけでなく、統一的なマーケティングやデータに基づいた施策、地域住民との協働体制など、多岐にわたる基準が求められます。
たとえば、観光客の動向を調べるために位置情報データや滞在時間などを分析したり、観光コンテンツごとの満足度を調査したりすることで、次の施策を検討する材料としています。また、季節ごとの訪問傾向や、外国人観光客の属性・傾向も分析し、エリアごとに効果的な発信や改善策を講じることが可能です。
DMOとなることで、行政だけでは難しい柔軟な取り組みやスピーディーな実行が可能となり、民間の視点も取り入れながら、観光が地域の未来づくりと直結する流れが生まれました。
墨田区を“まちごとテーマパーク”に──観光の現在地と課題
すみだ経済新聞: 理事長がよくおっしゃる「墨田をまちごとテーマパークに」という言葉について、詳しく聞かせてください。
森山理事長: 「まちごとテーマパーク」とは、特定の施設に依存するのではなく、地域全体が観光の舞台になるという考え方です。スカイツリーという巨大なランドマークは確かに強力な集客装置ですが、それだけではありません。銭湯や商店街、町工場、花街、そして何気ない日常風景まで、墨田には観光資源があちこちに眠っています。まちを歩いて、地元の人と話して、五感で楽しむ。そうした“体験型”の観光を強く意識しています。
すみだ経済新聞: 体験型観光を具体的に進める上で、どんな取り組みをされていますか?
森山理事長: 例えば地域資源を使ったまち歩きイベントや、町工場や東京都の伝統工芸の工房とのものづくりワークショップなど、誰もが参加できるプログラムを増やしてきました。また、個人的な活動ですが、カフェ巡りのインスタグラムやリストのように、住民目線でまちを楽しめる情報も好評です。観光客だけでなく、地元の方にとっても新たなまちの魅力を発見できるようにしています。
すみだ経済新聞: 墨田区観光協会の成り立ちについて教えていただけますか?
森山理事長: 観光協会は、行政はもちろん、地域の商店や企業、住民の皆さまと連携する団体です。観光をテーマにハブ的な役割を担っています。私はJ:COMすみだ台東局の局長を務めていたときに理事として関わるようになり、その後、理事長として活動するようになりました。出身は富山県ですが、墨田区での仕事を通じて地域と深く関わるようになりました。
東京都で最初に観光庁から「DMO(観光地域づくり法人)」として登録を受けたことも大きな転機でした。DMOとして、地域全体の観光戦略を担う役割が求められており、データに基づいてPDCA(計画→実行→評価→改善)のサイクルを回し、観光の質を高めていく体制づくりを進めています。
すみだ経済新聞: DMOとしての取り組みはどのように始まり、何が変わったのでしょうか?
森山理事長: 観光庁のDMO制度が始まったタイミングで、墨田区では「住んでよし、働いてよし、訪れてよし」の観光を進めていこうという機運が高まりました。行政と民間、そして地域住民が一体となり、観光協会がDMOとしての役割を担う体制を整えたのです。
これにより、単なるイベント主体の取り組みではなく、地域資源の掘り起こしや地域団体とのネットワークの強化により、実効性のある観光施策を展開できるようになったと感じています。
<後編に続く>
インタビュアー:すみだ経済新聞(長尾円)
カメラマン:すみだ経済新聞(宮園厚司)