特集

インタビュー 「すみだ活性化のキーパーソンが語る墨田と私」
森山育子 墨田区観光協会理事長(後編)

  • 0

  •  

墨田区を観光のハブに 墨田区観光協会・森山育子理事長に聞く(後編)
観光の主役は、地域に暮らす人びと──。後編では、エリアごとに異なる墨田区の観光戦略やインバウンド対応、住民と連携した取り組みの事例を紹介。観光を「手段」と捉える森山理事長の原点と、墨田区が「日本観光のハブ」となるための展望に迫ります。


エリアごとの多様性──ターゲットに応じた観光戦略

すみだ経済新聞: 墨田区内でも、地域ごとに観光のスタイルが違うように感じます。

森山理事長: はい、本当にそれぞれ違います。墨田区は南北に長く、両国、押上、錦糸町──エリアごとにターゲットが違いますし、それぞれが異なる個性を持っていますので、来る観光客の属性も異なります。

両国は相撲のまちとして外国人観光客に人気ですし、「江戸の文化を体験できる街」として、すみだ北斎美術館、大相撲、江戸東京博物館(改修中)といった施設がそろっていて、欧米系の観光客が多いことが人流データでもわかります。
外国人観光客に人気のすみだ北斎美術館
外国人観光客に人気のすみだ北斎美術館


押上・スカイツリー周辺はアジア圏の観光客が多く、ショッピングやグルメ、家族連れの観光が中心です。向島は日本文化を体験できる花街の雰囲気を残しています。

錦糸町は多国籍な街です。韓国、東南アジア、欧米などさまざまな国の方々が宿泊や飲食で利用していて、多文化共生の地域でもあります。ムスリム対応の飲食店もいくつかあり、それも特徴のひとつです。地域ごとに異なるストーリーを丁寧に発信していくことが、持続的な観光につながると考えています。
錦糸町から東京スカイツリーを望む

すみだ経済新聞: 具体的なインバウンド対応の取り組みについても教えてください。

森山理事長: 多言語のチラシやパンフレット、ホームページの作成などを行ってきました。英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語など、多言語での情報発信を整えています。

また、デジタルでの案内も強化しており、スマホ対応の観光マップやWebサイトも充実させています。

SNSでの発信も強化しており、Facebookのほか、お土産物販売の「コネクトすみだ」ではインスタグラムなどでの写真共有を通じたPRが、若い世代の旅行者との接点になっています。

さらに最近では、多文化共生を視野に入れたイベントやガイド育成なども進めています。


まちと一緒につくる観光──墨田らしさを生かした事例紹介

すみだ経済新聞: 具体的に、これまでどのような観光まちづくりの事例がありましたか?

森山理事長: たとえば、コロナ禍で中断していた地域活動を活性化させるため、墨田区商店街連合会と連携して行っている「そよかぜつながるフェス」(隅田公園そよ風ひろば)は、墨田区内の企業や団体、個人の方の活動の場を提供することを目的に2022年の桜まつりのタイミングから始めました。今年の5月で35回目を迎えましたが、浅草と東京スカイツリーをつなぐ拠点として、住民だけでなく多くの旅行客に楽しんでいただいています。


様々なイベントを開催している隅田公園そよ風ひろば

また、ものづくりのまちとして、伝統工芸や町工場での体験メニューを、問い合わせから体験、清算までをワンストップで体験できる仕組みづくりをしてきました。特に修学旅行でのワークショップは年間65校、4,500人を超える学生が参加しており、東京スカイツリーの塔体見学ツアーも人気です。

向島エリアでは、花街文化を観光に生かす取り組みが進んでいます。伝統文化芸能を体験できるナイトタイムツアーとして、見番でのお稽古見学や体験、料亭での食事やお座敷遊びなどがあり、国内外の観光客から非常に関心を持たれています。東京でいま最も規模の大きな花街の一つとして、向島の魅力を再発見する動きも強まってきました。


墨田を起点に観光を広げる──日本観光のハブとしての展望

すみだ経済新聞: 観光の視点で、これからの墨田区はどんな役割を担っていくべきだと考えていますか?

森山理事長: 墨田区を「日本観光のハブ(拠点)」にしていきたいというのが大きな目標です。成田・羽田の両空港からのアクセスも良く、新幹線駅や主要な交通網ともつながっています。

スカイツリーという全国的な観光資源があることで、すでに「一度は行ってみたい場所」としての知名度も高い。特に近年、墨田区内では民泊やゲストハウスが増加傾向にあります。そこに宿泊する方々にとって、墨田区を拠点に周辺地域や他県への観光動線を組み立てることができれば、墨田区の役割はもっと大きくなります。

関東圏のDMOや観光協会と連携することで、こうした構想を具現化できるのではないかと考えています。


地域とともに歩んで──森山理事長の原点と想い

すみだ経済新聞: 最後に、理事長ご自身のことについても伺わせてください。観光の仕事に関わるようになったきっかけは?

森山理事長: もともとはJ:COMの前に勤務していたクレジットカード会社で地域と関わることが多くなり、地域貢献に興味を持ち始めたことがきっかけでJ:COMに転職しました。その後、J:COMすみだ台東局の局長として、より深く墨田区と関わりが深くなったことが観光としての接点でした。ケーブルテレビというメディアを通じて地域の情報を収集したり、イベントに参加したりすることで、より一層「墨田区が好きだな」と思うようになったのです。

最初は仕事の一部として関わっていた地域が、いつの間にか自分の人生の一部になっていました。当時はサラリーマンでしたので、一度、墨田区を離れ市川市に転勤になったのですが、縁あって観光協会の理事長として戻ってくることになりました。実際、戻ってくると歓迎してくださる方が多く、改めて墨田区の人のつながりや人情に触れ、このまちのお役に立てるならと思い、今に至っています。

理事長になってからは、「観光まちづくり」という視点で、地域のさまざまな方と対話を重ねてきました。課題も多いですが、だからこそ“人と人をつなぐ役割”を観光が担えると信じています。

すみだ経済新聞: 今後の展望をお聞かせください。

森山理事長: 墨田区観光協会は、4年後の2029年に一般社団法人化から20周年を迎えます。当協会が地域の皆さまから信頼され、観光振興の一翼を担える組織であり続けることを目指しています。

そのためにも観光振興を通じて、墨田区の産業経済の発展と区民の生活の質の向上に貢献できる取り組みを進めていきます。また、今後インバウンドを含めて観光客が増加する中で、地域住民と観光客がお互いに気持ちよく過ごせる観光地づくりがますます重要になると感じています。

そのためには、墨田区や事業者、区民、そして観光協会が一体となって、持続可能なまちに育てていくことが大切です。

「住みたいまち すみだ、働きたいまち すみだ、訪れたいまち すみだ」において、最初のきっかけづくりとなる「訪れたいまち」を推進する観光協会としての役割を、今後も担っていきます。

(完)

<前編へ戻る>
 


インタビュアー:すみだ経済新聞(長尾円)
カメラマン:すみだ経済新聞(宮園厚司)

 


  • はてなブックマークに追加
エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース