演劇上演「その月と喪失」が12月2日、菊川の映画館「Strangerストレンジャー」(墨田区菊川3)で千秋楽を迎えた。主催は隅田川 森羅万象 墨に夢(すみゆめ)と任意団体「まびえ,」。
演劇「その月と喪失」の第2幕「煮物の甘さは」(撮影=フルサトヒロミさん)
映画館という空間で演劇を上演する初めての試みに挑戦した同企画。ミニシアターの特性を生かし、観客が舞台の中へ入り込むような没入感を意識したという。
上演は3つの物語によるオムニバス形式。第1幕は、同団体代表でプロデューサーの伊藤聖実さんが脚本を手がけた「煮物の甘さは」。古橋晴さんと伊藤さんが出演し、2025年11月の菊川橋児童遊園を起点に、若い女性二人が母や祖母の喪失と向き合う物語が描かれた。
第2幕は、福田健人さんの「帰京」。伊藤さんと矢部祥太さんが出演し、終戦から3年が経った1948年を舞台に、復員を待ち続けていた妻の前に突然現れた男が夫の戦死を告げることで喪失が浮かび上がる物語が展開された。
第3幕は、炫(ひかる)さんの作品「朔望月」。矢部祥太さんと伊藤さんが出演し、時代を現代に移し、劇場の空間で創作に向き合う二人の関係性に潜む喪失が描かれた。
3つの物語の合間には、1945年3月10日に菊川や森下(江東区)を襲った東京大空襲の体験を語る映像が上映された。現在と80年前の記憶が交錯し、フィクションであるからこそ浮かび上がる喪失の重さを視覚化したという。
伊藤さんは「初めての創作にも関わらず多くの方に観ていただけた。『喪失』という観点から、自分とこの地で起こった東京大空襲を地続きに感じてもらう共有・分有が少しでもできたらうれしい」と話す。
「ストレンジャー」の2階にあるワークシネマパラダイス(菊川3)では、展示「その月と喪失の裏側」を開催中。創作の過程や対話の会で寄せられた喪失の言葉、東京大空襲体験者への聞き取り映像などを紹介するほか、チラシや池田洸太さん・川合南菜子さんによる原画も展示している。
伊藤さんは「ぜひ立ち寄って、ドアを叩いてみてほしい」と呼びかける。
開催時間は10時~18時。入場無料。12月9日まで。8日は休館。