
総菜店や銭湯が並ぶ「キラキラ橘商店街」(墨田区京島3)に9月1日、ホステル「1つの風景」がオープンした。食事は提供せず、商店街の総菜や近隣の銭湯を旅の体験に組み込む「商店街一体型ホテル」として、下町の日常を味わえる拠点を目指す。
同施設が立地する京島は、入り組んだ路地や個性的な町工場、地域密着の商店などが集まり、戦前からの長屋が東京でもっとも多く残るエリア。人情あふれる暮らしに引かれて若者の定着も増えており、古いものと新しいものが入り交じる独自のまちづくりが進んでいる。
運営するのは日常福祉合同会社(墨田区)。代表の堀直人さんは北海道出身で、地域課題解決事業や政治活動を経て京島に拠点を移した。「まち全体を福祉現場と捉え、旅館業を就労の場とするモデルを模索したい」と話す。共創担当の後藤大輝さんは2008(平成20)年に京島へ移住し、街なか博覧会「すみだ向島EXPO」の主催者として地域文化を発信してきた。
施設が入る「TACHIBANA TERMINAL」は多機能複合拠点として整備され、「京島劇場」の名前で、すみだ向島EXPOの会場としても活用されてきた。1階には就労継続支援B型事業所を設置し、2階には宿泊施設のほか、旅人と住民が交流するラウンジやデジタル工作室を設け、今後は子ども向けアートスタジオの開設も予定する。施設改修は2025年2月からスタッフやボランティアが行い、壁も自分たちで塗り上げた。
就労支援施設(B型)の利用者は清掃や運営補助を担いながら、慣れてきた人はホテルや近隣の民泊の仕事に挑戦できる仕組みを整える。「就労環境をより安定させるために、A型とB型の中間を目指したい」と堀さんは話す。
ホステル名の「1つの風景」には、「異なることが希望であり、違うことが可能性である」という思いが込められている。障害を持つ人、京島に暮らす人々、国内外から訪れる旅人が交わることで、互いに新しい風景に気づき、一人一人の可能性を広げていくことを目指すという。
客室は4部屋。1人部屋「おかえりワンダ」(6,000円)、2人部屋「ラビットホール」(1万1,000円)、3人部屋「夕凪(なぎ)のオペラ」(1万5,000円)、4人部屋「千年の稀人(まれびと)」(1万8,000円)と名付けた。シャワーは24時間利用でき、チェックインは2階の管理事務所で行う。
「利用客と一緒に企画をつくり込み、地域の人や旅人が自然に交流できる場にしながら、福祉を起点に観光・まち・文化をつなぐ拠点にしたい」と堀さん。予約は公式サイトと電話で受け付ける。