銭湯文化と映画制作の「途中」を地域にひらくイベントが12月21日、墨田区内で行われた。主催は一般社団法人「ハイドロブラスト」と「隅田川 森羅万象 墨に夢 実行委員会」。
当日、午前は銭湯「松の湯」(墨田区緑3)で朝風呂とまき入れ体験を行い、午後は「墨田区生涯学習センター(ユートリヤ)」(東向島3)で、ドキュメンタリー映画「煙突清掃人」のワーク・イン・プログレス(製作途中)上映会を行った。
マンション建設が進む墨田区では、街なかで大きな煙突を目にする機会が減っている。現在、区内でまきを使って湯を沸かす銭湯は3軒のみとされ、銭湯の煙突は風景としても、技術としても貴重な存在になりつつある。今回のイベントは、銭湯を支える仕事や文化を体験と映像の両面から伝えることを目的に企画した。
午前の会場となった松の湯は約80年の歴史を持つ老舗銭湯。当初、定員8人でまき入れ体験の参加者を募集したが、当日は30人以上の親子連れや銭湯ファンが集まった。参加者は、松の湯店主・平野善之さん指導の下、釜場でまきをくべる作業を体験。子どもたちは狭い釜場で順番を待ちながら、真剣な表情でまきを運び入れた。体験中には焼き芋も振る舞い、体験の前後に朝風呂を楽しむ参加者の姿も見られた。
平野さんは、温浴施設の企画やスーパー銭湯の開発に携わってきた経歴を持つ。かつては個人経営の銭湯に将来性を感じていなかったというが、各地の銭湯に通う中で、普段は接点のない高齢者や若者が自然に言葉を交わす場は地域に他になく、残す必要があると考えるようになったという。「まきで湯を沸かすには手間がかかり、専任の人手も必要になるが、同じ温度でも温かさが違う気がする。新木場などの廃材をまきとして使えば資材の再利用にもなる。大変だが続けていきたい」と話す。
午後の上映会では、太田信吾監督が製作を進めるドキュメンタリー映画「煙突清掃人」の製作途中映像約30分を上映した。同作は、日本に数人しかいない銭湯専門の煙突清掃人・斎藤良雄さんを主な被写体とし、その仕事と日常、銭湯文化を描く。映像では、斎藤さんが煙突清掃を行う様子や、能登・珠洲の銭湯との関わり、家族と共に現場へ向かう姿などを紹介した。
上映後のトークでは、太田監督と斎藤さん、斎藤さんの仕事を手伝う孫の3人が登壇。震災で被害を受けた珠洲の銭湯煙突の修復に向けた構想や、今後の撮影計画について語った。斎藤さんは煙突内部での作業について身ぶりを交えながら説明し、「何年やっても楽しい仕事」と語る一方で、危険と隣り合わせの作業であることにも触れた。
同作は完成後、国内外の映画祭への出展を目指す。製作チームは2026年1月にも墨田区内で撮影を行い、銭湯シーンに出演するエキストラを募集する予定。