特集

「なつのあそび大学2025」
赤字も黒字も楽しむ国~ものづくりのまち墨田、子どもたちの挑戦~

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 子どもたちが議員や起業家、国民となり、自らの手で国を築く――。
千葉大学墨田サテライトキャンパスで開かれた「なつのあそび大学2025」は、経済や政治を模した仕組みを通じて、子どもたちが「失敗してもやり直せる」体験を重ねる1週間となった。


背景と理念

 「あそび大学」の原点は、企画・運営を担う關真由美さんが大学で工業デザインを教えている時の経験にある。学校に戻った時、学生が「これをやっていいですか」と常に許可を求めて動けない姿を見て、もっと早い段階から「自分で決めて、挑戦し、その結果を引き受ける」経験を積む必要があると感じた。

 活動のモデルとなったのは、ドイツ・ミュンヘンで行われている子どもによる国づくりイベント。しかし墨田版は独自に発展した。町工場から提供される端材や資材を「すみだから(墨田の宝)」と呼び、子どもたちが自由に活用する。既製のおもちゃではなく、布・革・金属・紙といった廃材を使うことで、思いもよらない発想や創造が生まれている。

 主催は特定非営利活動法人あそび研究会。千葉大学環境デザイン研究室、一般社団法人SSK、NPO法人Chance For All(CFA)、Seki Design Labが協力して運営。大学生や社会人ボランティアも多数参加し、子ども主体の国づくりを支えている。

 「大人が先回りして正解を用意するのではなく、子どもが自分で考え、挑戦し、時には失敗から学べることが大事」と關さんは話す。


こどもの国・1週間の歩み(2025年8月17日~23日)

  • 8月17日:議員会議を実施。立候補者が集まり、政策や今年の国の方向性を話し合う。投票や面接はなく、立候補した子どもたち全員が議員に就任した。
     
  • 8月18日:建国の日。国民や起業家が通貨「キッズ」を手に活動を開始。出店準備や店舗づくりも始まる。参加者は50人。

     
  • 8月19日:起業日。実際に店がオープンし、仕事やサービスが始まった。参加者246人。

     
  • 8月20日:山本亨区長が視察。午後には選挙が行われ、トマと議員が「国民幸福度」を掲げてトップ当選。議員体制が正式に発足。参加者280人。

     
  • 8月21日:議員5人のうち3人が不在となり、残った太一議員とSHOKUBUTSU議員の2人で国を運営。ルーレットを使ったギャンブルで大きな利益を上げ、赤字国庫を救済。参加者240人。
     
  • 8月22日:恒例の公共事業「お化け屋敷」を開催。来場者を驚かせ、笑顔を生む仕掛けで幸福度を向上。子どもたち自身の言葉を募って「国歌」も制定。参加者205人。

     
  • 8月23日:クロージングパーティー。最後は全員で国歌を大合唱し、53人が振り返り会に参加。子どもたちは「友達ができた」「議員の仕事は大変だった」「アルバイトでお金を稼げてうれしかった」と感想を語り、笑顔で幕を閉じた。

議員たちの挑戦

 こどもの国の運営を担うのは「議員」。事前立候補のほか、選挙日当日にも立候補可能で最大6人の議員で国を運営していく。つまり初期に立候補しても、政策や活動内容によっては選挙で落選する場合もある。

 そして8月20日の選挙を経て、正式に今年の国を担ったのは5人の議員。それぞれが異なる動機と個性を持ち込み、国を動かした。
  

  • エリザベス議員(中2)
     2年連続で議員を務めた。「国民の声をまとめるのは大変だった」と振り返りつつ、議論を仕切る姿は頼もしかった。来年は中学3年生になるが、高校生も国民やボランティアとして参加できると聞き、「私は女王になって王政を築きたい」と語り、長期政権への野心をのぞかせた。

     
  • 木材議員(中1)
     政治に興味があり、昨年に続いて立候補。「議員の仕事は思った以上に難しかった。日本の議員さんの大変さも少しわかった」と現実の重みを語った。赤字に終わった昨年の経験を踏まえ、政策の組み立てを工夫する姿があった。

     
  • トマと議員(小6)
     きっかけは「学校でチラシを見て、ちょうど暇だったから」。気軽な動機での初参加だったが、選挙では「国民幸福度」を掲げてトップ当選を果たした。お化け屋敷を公共事業として実現し、「国民が喜んでくれるのが楽しかった」と振り返る。

     
  • SHOKUBUTSU(しょくぶつ)議員(小6)
     「政治に興味があったから参加した」という初挑戦組。冷静な視点で国の制度に臨み、「選挙があること自体が驚き。普通の国みたいだった」と感想を語った。21日には太一議員とともに財政赤字を救済する“ルーレット作戦”で存在感を示した。

     
  • 太一議員(小6)
     4年連続参加。1年目・2年目は起業、3年目は「ギャンブル屋」を立ち上げ、今年は議員に挑戦した。21日にはSHOKUBUTSU議員と二人だけで国を動かし、ルーレットを運営して国家財政の赤字を救済。
     「男子の議員をもっと増やしたい。来年はギャンブルを合法化する」と豪語し、ユーモラスながらも存在感を放った。



子どもがつくる制度と省庁

 国の運営を支えたのは議員だけではない。公務員役の子どもたちが「省庁」に所属し、社会の仕組みを動かした。
 

  • 銀行:通貨「キッズ」を管理し、預金や融資を担当。廃業届を出せば借金を帳消しにする新制度も導入された。

     
  • 素材庁:町工場から届く端材や資材を管理。子どもたちはここで材料を受け取り、店や作品に変えた。

     
  • 入国管理庁:国に出入りする国民を管理し、ルールを守る仕組みを体験。

     
  • 警察庁・清掃庁:秩序や環境を守る役割を担った。

     
  • 国土管理庁:土地や資源の管理を通じて国の基盤を支えた。

     

公共事業と幸福度
 子ども議員が掲げた政策テーマは「国民幸福度の向上」。その象徴が最終日の公共事業「お化け屋敷」だった。参加者を驚かせ、笑顔を生み、収益でも赤字削減を狙った。

 国の収支は思うように黒字化できなかったが、国民の満足度を高める仕掛けを生み出すことで、議員たちは「政治の面白さと難しさ」を体験していった。


参加者と広がり

 今年の延べ参加者は1,074人。月曜50人、火曜246人、水曜280人、木曜240人、金曜205人、最終日53人が訪れた。ボランティアは1日平均30人が運営を支えた。

 コロナ禍直後に始まったあそび大学は、当初は高学年の参加が多かったが、近年は低学年も増えている。しっかりと利益を出せるお店が減る一方で、「のびのびと好きなことができる」「ボランティアとおしゃべりするのが楽しい」といった声も多い。議員同士のつながりはもちろん、国民同士も「公園で顔を合わせた」と話すなど、地域での関係性が育ちつつある。


国歌
議会に設置されたボックスに国民がフレーズを投票。そのフレーズを歌詞として採用して誕生したのが「こどもの国の国家」。思わず口ずさみたくなるメロディと元気になる歌詞が、来年以降も子どもたちを励ましてくれると思う。

【こどもの国 国歌】

ああ こどもの国
ハッピー楽しいみんなの国
光よそそげ
みんなといっしょに Let's Go!

ああ こどもの国
赤字も黒字も楽しい国
かんきょうをまもろう
みんなといっしょに Let's Go!

つくるたのしさ
じゆうな場所さ
みんなのくにさ
がんばれるのさ

ああ こどもの国
ハッピー楽しいみんなの国
光よそそげ
みんなといっしょに Let's Go!


結び

 4回目を迎えた「なつのあそび大学」。赤字も黒字も、成功も失敗も、すべてを子どもたち自身が体験し、学びに変えていった。町工場から託された端材「すみだから」は、子どもたちの手で店となり、遊びとなり、国のかけらになった。ものづくりのまち墨田の誇りが、次の世代の挑戦を支えている。

 「赤字も黒字も楽しむ国」。それは社会の仕組みを学ぶ場であり、仲間とつながる場であり、未来を思い描く場でもある。来年以降も、この“小さな国”の成長を見守っていきたい。


關真由美さんから届いたメッセージ

この度は猛暑の中、何度も取材に来てくださり有難うございました。

また、今回も素敵な記事にしていただき有難うございます。こども議員の言葉をたくさん掲載してくださったので、きっと、彼らが大喜びします。

毎年、この1週間は本当にしんどく、来年はしれっと『なつのあそび大学』をやめてしまおうかな…と思うのですが、クロージングパーティのこども達の満面の笑みを見てしまうと、やっぱり来年もまたやろう!と思っちゃいます。

きっと、来年もやると思いますので、また取材に来ていただけると幸いです。」



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取材:飛高加奈子
編集:宮脇恒

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