中編:すみだストリートジャズフェスティバル、15年の歩みと実行委員長の視点
すみだ経済新聞: すみだジャズの実行委員会はどんな体制になっているのでしょう。
健太郎さん: バンドステージ、飲食、広報、アーティスト対応、エコ、人事、事務局、協賛営業など、それぞれが専門的に役割を担っています。コアメンバーは約30人ほどで、月に一度の会議を基本に普段から準備を進めています。僕は2024年から実行委員長を務めていますが、全体をまとめながらも現場感覚を大切にしています。
すみだ経済新聞: イベント全体の運営規模についても教えてください。
健太郎さん: 開催中は延べ500~600人のボランティアスタッフが活動しています。最盛期には延べ1,000人を超えることもありました。会場数も最盛期の約50ヶ所から、現在は約30ヶ所に減っています。コロナの影響は大きく、縮小せざるを得なかったのですが、その分「密度のある会場づくり」を意識するようになりました。
ボランティアがイベントを支えている(写真提供=すみだジャズ)
ただ、今年は大きな変化があります。東京スカイツリーに隣接する東京ソラマチが会場として復活するんです。あの場所はやっぱりシンボル性が高く、観光で訪れる人と地元の人をつなぐ意味でも特別な場所。音楽と観光の両方をつなぐ場として、とても重要だと思っています。
すみだ経済新聞: 実行委員長として大事にしている姿勢は何でしょう。
健太郎さん: 「人に頼る」ということですね。最初の頃は自分で抱え込んでしまうことも多かったんですが、今はできるだけ役割を分担して、メンバーに任せることを意識しています。昨年は走りすぎて、いわゆる「信用貯金」を使い果たしてしまったような気もしました。でも、そこから学んだことは、すべてを自分ひとりが背負うのは状況によっては最善ではないことです。これからは関わり方を選びながら“誰でも運営できる組織”にしていきたいと思っています。僕自身がいなくても続くフェスにしていくことが目標です。
すみだ経済新聞: 15周年にあたって掲げたテーマを教えてください。
健太郎さん: 「すみだとともに15年 未来へ続くストリート」というスローガンです。墨田という場所で15年間も継続して開催させてもらっていることへの感謝を込めています。今年は“すみだ推し”をテーマに、すみだにまつわるアーティストやすみだのシンボリックな会場を特に取り上げました。すみだトリフォニーホールでは、小ホールで、コロナ禍後はじめてとなる2日間同時開催のステージを実施し、来年は大ホールをステージとすることも決まっています。墨田区にゆかりのあるシンガーソングライター中村中さん、竜馬四重奏さん、すみだジャズに縁の深いアーティストの方々の演奏を予定しています。
墨田区では音楽を楽しむ文化が定着している(昨年のイベントの様子)
すみだ経済新聞: イベントを続ける上での課題は?
健太郎さん: 最大の課題は予算です。協賛を集めるのは本当に大変で、予算規模は約2,000万円ほど。ご用意させていただいている協賛メニューの最大金額は100万円ですが、それでも充分とはいえず、とても多くの企業、団体のみなさまにご協賛いただいて開催しています。また、地域振興イベントとしての側面と、音楽フェスとしての魅力の両立も課題です。地域に根ざしつつ、音楽の力で外から人を呼び込む。そのバランスを常に意識しています。
すみだ経済新聞: 新しい取り組みはありますか?
健太郎さん 僕が代表になった2024年から「すみだのマルシェ」を立ち上げました。出店料を通常の10分の1にし、墨田区の人しか出られないという制約を設けています。地元の人にもっと気軽に参加してもらえるようにするためです。フェスを「外から来て楽しむ場」だけでなく「地元が主役になれる場」として育てていきたいと思っています。音楽フェスであると同時に、地域振興イベントでもある。そのバランスをとるのが難しいんですが、音楽で人を楽しませることと、地域に根差すこと。その両立を追いかけたいです。
オクトーバーフェストもすみだジャズの人気コンテンツ(写真提供=すみだジャズ)
すみだ経済新聞: オクトーバーフェストやジビエフェスティバルも同時開催ですね。
健太郎さん:“すみだ式”のオクトーバーフェストは入場無料で全国のクラフトビールをワンコインという気軽さで楽しむことができるすみだジャズの飲食コンテンツです。墨田区にあるクラフトビールの自家醸造の店舗も出店します。ジビエフェスティバルは、墨田区が皮革産業のまちであることに発想を得て、皮革産業のまちで開催することに意味があるジビエフェスティバルとしています。両方とも飲食イベントを別で開催しているように見えますが、それはコンテンツにインパクトをつけるための演出で、あくまですみだジャズの飲食コンテンツとして開催している仕組みです。
すみだ経済新聞: オクトーバーフェストは8月に紹介したすみだ経済新聞の記事でもランキング1位と注目度が高いです。
※オクトーバーフェストを紹介した記事はこちら
「錦糸公園で「オクトーバーフェス」 ワンコインクラフトビールとジビエ料理も」
健太郎さん:それはうれしいです。実行委員会のメンバーも喜ぶと思います。こうやって地域メディアに取り上げていただくことで注目されるのは、励みになります。イベントとメディアの関係性は今後も大切にしていきたいと思っています。
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インタビュー:長尾 円
撮影:宮脇 恒