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落語で墨田の人と店をつなぐ 八百谷英司さんが描く街の寄席

「落語のまち、すみだ」を掲げる八百谷英司さん(右)と、IKIJIの運営を担う近江祥子さん

 墨田区内の飲食店や店舗で、同時多発的に落語会を開く。来場者が街を巡りながら話芸を楽しみ、その土地の人や店、ものづくりにも触れる。「落語のまち、すみだ」を掲げて活動するOffice YAOの八百谷英司さんが目指しているのは、そんな風景だ。

 モデルにするのは「すみだストリートジャズフェスティバル」。街の各所に音楽を楽しめる会場があるように、落語を楽しめる場所を墨田に増やしたいと考えている。その構想を支えるのは、落語家との長年の関係と、地域で育んできた人とのつながりだ。

■同級生の襲名を支えた経験から
 八百谷さんが落語の活動に深く関わるきっかけとなったのは、小学校の同級生の古今亭圓菊さんが父の名を継いだ際、その襲名を手伝ったことだった。


 広報やYouTubeの制作、襲名披露のパーティーの準備などに携わった。落語を聴くようになったのはそれ以前だったが、落語家の活動を支える経験を通じて、墨田でも落語を知ってもらいたいという思いが生まれた。

 地域には、大きな会場で落語を楽しむ機会もある。八百谷さんが考えたのは、地域の人や店と協力して開く小さな落語会だった。墨田のいいところ、いい人、いいものと落語を組み合わせ、街を盛り上げる。地域に暮らす落語家が、地元で高座に上がれる場所も探してきた。

 文化を次の世代へどうつなぐかという関心もある。そのためにも、まずは落語との接点を増やすことを大切にしている。「もうちょっと気軽にこう落語に触れてもらう機会を作るっていうのが、やっぱり一番です」と話す。

■街歩きで出会った、世界へ発信するものづくり
 活動を形にした取り組みの一つが、両国のライフスタイルストア「IKIJIストア」(墨田区緑1)で開催する「IKIJI寄席」だ。

 IKIJIは、1950(昭和25)年創業のカットソーメーカー「精巧」など、4社のファクトリーが協働して2011(平成23)年に立ち上げたブランド。発起人は精巧社長の近江誠さんで、同社取締役の近江祥子さんがプロジェクトマネージャーとしてブランド運営を担う。墨田のものづくりを背景に、江戸の「粋」や「心意気」を現代の服や革小物で表現している。

 取引の大半を海外が占め、イタリアでの展示会をはじめ、海外のセレクトショップなどを通じて商品を届けている。地域で培われた技術や文化を、世界へ発信するブランドだ。

 八百谷さんが近江祥子さんと出会ったのは、街歩きイベントだった。話をする中で、同店でも落語や講談を開催したいという考えがあることを知った。地元で落語会を開ける場所を探していた八百谷さんと、店舗で文化を発信したいと考えていた祥子さんの思いが重なった。

 八百谷さんは、何かを提案する際には企画書を作るという。この時も企画書を持って改めて店を訪れ、会場を見ながら、どのような形で開催できるか相談を進めた。

 ブランドの取り組みで特にひかれたのは、地域の職人がIKIJIの服を着て登場するマガジンの企画だった。服だけでなく、その土地でものづくりを続ける人や仕事を伝える姿勢に魅力を感じたという。

 職人も落語家も、受け継いだ技を磨き、自分の表現につなげている。八百谷さんは、企業との協働でも、ものづくりや文化を受け継ぐことへの思いを共有できることを大切にしている。

 IKIJIとの出会いは、落語会の会場を見つけるとともに、地域のものづくりと話芸を結び付ける取り組みにつながった。

■小さな寄席を、継続する場に
 IKIJI寄席は2025年3月に始まり、10月23日には4回目を迎える。
 1回目、2回目は林家あんこさんが出演した。


 今回は、前回に続いて圓菊さんが出演する。

 店舗内の会場は最大20人程度。収容人数には限りがあるが、主催側が大切にしているのは、細く長く続けていくことだ。八百谷さんも、同寄席で自身の収益を得ることを目的としているわけではなく、店で落語会を続けてもらうことを重視しているという。

 今回は2部制を取り入れる。19時開演の第1部から参加する人は、そのまま第2部まで鑑賞できる。20時開演の第2部だけの参加も受け付け、仕事帰りなどにも立ち寄れる形にした。

 店舗で落語を楽しむ機会があれば、落語をきっかけに店を知る人も、店を訪れたことをきっかけに落語へ関心を持つ人も生まれる。継続して開催することは、その接点を育てていくことでもある。

■人や店を知るほど、落語との接点が見えてくる
 八百谷さんは、地域の人と知り合い、仕事や店について聞くほど、ここで落語をやったら面白いのではないか、と考えるようになったという。

 ものづくりの企業には、技術を受け継ぎ、苦労を重ねながら事業を続けてきた歴史がある。飲食店にも、料理や店主、その店に集まる人たちが持つ魅力がある。八百谷さんは、そうした地域の営みと落語との接点を探している。

 飲食店との連携も、その一つだ。落語には食べ物や商売など、さまざまな題材がある。店の料理や業態に合う演目を組み合わせれば、その店ならではの落語会ができる。料理を楽しみに来た人が落語に触れ、落語を聴きに来た人が店の魅力を知る機会にもなる。

 活動を支えているのも、日頃から付き合いのある人や店だ。落語会のチラシを掲示するなど、身近な協力が開催を知らせることにつながっている。新たな出会いは、企画のヒントにも、次の協力先を見つけるきっかけにもなる。

■ジャズフェスのように、街の各所で落語を
 八百谷さんが目標に掲げるのは、「すみだストリートジャズフェスティバル」のように、墨田区内の複数の会場で同時多発的に落語会を開くことだ。

 飲食店や店舗などを会場に、街を巡りながら落語とそれぞれの場所の魅力を楽しむ。落語家が高座に上がる場を増やすとともに、地域の店を知るきっかけをつくる。来場者が普段は入ったことのない店や、知らなかった地域の仕事に出会える形を目指している。

 まずは3軒程度で試験的に取り組むことも構想している。具体的な会場や日程は未定だが、地域の人や店との協働を積み重ねながら、実現を目指す。

 同級生の襲名を手伝った経験が、地元で落語を楽しめる場所を探す活動につながり、街歩きでの出会いが店舗での寄席になった。八百谷さんにとって、人と知り合い、その人が大切にしているものを知ることが、次の企画の出発点になる。

 ものづくりの店で始まった寄席を、飲食店へ、そして街の各所へ。「落語のまち、すみだ」に向けて、八百谷さんは地域の人たちと落語を結び付ける活動を続けている。

 

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