夢を夢で終わらせない 中田清史さんが語る墨田の未来
すみだ活性化のキーパーソンが語る「墨田と私」
東京東信用金庫 会長 中田清史さん

「夢を夢で終わらせない信用金庫」を掲げる東京東信用金庫。資金を融通するだけでなく、企業と大学をつなぎ、全国の信用金庫と地域同士の交流を支えてきた。後編では、会長の中田清史さんに、産学官金連携や地域への取り組み、墨田の産業とまちの未来について聞いた。
「江戸っ子1号」に見る、産学官金の力
すみだ経済新聞──産学官金連携の取り組みについて教えてください。
中田さん:産学官連携という言葉は以前からありましたが、そこに「金」を入れたんですね。代表的なのが「江戸っ子1号」です。
大阪で宇宙を目指す取り組みがあるなら、東京は深海を目指そうという発想を、お花茶屋支店のお客さんからいただきました。それは面白いね、と東京海洋大学に相談して、お客さんたちの技術を集めてつくろうということになりました。
ガラスの技術を持つ企業や、浜野製作所さんなど、いろいろな企業が参加しました。大学の先生も交えて、どうつくるかを議論しました。
すみだ経済新聞──その中で、信用金庫はどのような役割を担ったのでしょうか。
中田さん:皆さん、それぞれの技術や考えを持つ経営者ですから、議論になるんです。「これでは駄目だ」「あれでは駄目だ」と。それを「まあまあ」と調整するのも、我々の役目でした。

先生を中心に、4年がかりで取り組んで、深海の生物を3Dで撮影することができました。資金も必要ですし、参加する企業に、持ち出しだけでやってくださいというわけにもいきません。お金の面と、間に入って調整する役割の両方がありました。
企業の技術が集まって、大学と一緒に形にしていく。それが産学官金連携ですよね。
すみだ経済新聞──浜野製作所の浜野慶一会長とは、どのような関わりがありますか。
中田さん:浜野さんは全国の信用金庫の若手経営者の会などにも呼ばれています。私たちから紹介することもあります。私は何十回も同じ話を聞いていますが、その都度感動するんです。
新入職員の研修にも、浜野さんの話を1時間入れています。我々の話より、浜野さんの話が心に残るんですね(笑)。感想文を書いてもらって、まとめて浜野さんにお渡ししています。
全国の信用金庫と、地域同士をつなぐ
すみだ経済新聞──全国の信用金庫とは、どのような連携をしていますか。
中田さん:信用金庫の理念は共存共栄です。お互いさま、というところがありますね。
災害の時に、職員が1,000円ずつ募金する取り組みがあります。1人では小さくても、仮に10万人が出せば1億円になる。支店で集め、金庫で集めて、全国の団体を通じて届ける。信用金庫らしい、いい取り組みだと思います。
東日本大震災の後には、気仙沼の信用金庫と連携しました。向こうで取れたメカジキを東京へ送り、レストランや学校給食などで使ってもらう取り組みもありました。今も行き来があります。鹿沼や津山など、連携している地域はいろいろありますよ。
すみだ経済新聞──地域同士の交流には、ほかにどのようなものがありますか。
中田さん:お客さんと旅行に行く時には、その地域の信用金庫のお客さんのホテルに泊まったり、お店で買い物をしたりします。冬の平日などに行きますから、受け入れる側も助かるんです。お土産を箱いっぱいに買って、送る方もいますよ。
逆に、地方のお客さんが東京へいらっしゃれば、こちらでご案内します。地域と地域で、お互いにそういうことをしています。
花巻へ行った時には、信用金庫の理事長が自ら花巻東高校を案内してくださいました。大谷選手や菊池雄星選手の記念のプレートや手形があって、グラウンドのそばも見せてもらいました。そういう交流も面白いですね。
地域のスポーツを支える、ひがしんアリーナ

すみだ経済新聞──ひがしんアリーナのネーミングライツについて、どう感じていますか。
中田さん:良い取り組みだったと思います。お金はかかりましたけれどね。最初は、金庫が体育館を買い取ったと思った人もいたようですが、ネーミングライツです。
今では皆さん、「ひがしんアリーナ」と言ってくださいます。名前が随分定着しましたね。ただ、うちのクラブだからといって、優先的に練習で使えるわけではないんですよ(笑)。練習場所を確保するのは、なかなか大変です。
事業者が出会う、国技館のビジネスフェア
すみだ経済新聞──ビジネスフェアについて教えてください。

中田さん:国技館でビジネスフェアを開いています。地方からも出店があって、物販を楽しみに来る方もいますが、企業同士のマッチングなどもやっています。そちらも、ぜひ見てもらいたいですね。
新入職員も、お客さんをお迎えします。そうした場に全国の信用金庫の方たちも来てくれますし、墨田のほかの取り組みも回ってもらうことがあります。
すみだ経済新聞──地域メディアには、どのようなことを期待していますか。
中田さん:そういう取り組みを、ぜひ書いてほしいですね。何をやっているかを伝えてもらうことで、墨田のことも、ひがしんのことも知ってもらえますから。
いい催しをしていても、それを知らない人もいます。どこで何をしているのか、伝えていただきたいと思います。
墨田のものづくりと商いを、次の世代へ
すみだ経済新聞──これからの墨田について、どのように考えていますか。
中田さん:地方の信用金庫の話を聞くと、人口も企業も減って、大変な地域があります。それに比べれば、東京は恵まれています。ただ、墨田に置き換えると、人口は増えていても、製造業をはじめ、企業は減っていますよね。そこは問題だと思います。
墨田には、紙も繊維も金属加工も、いろいろな業種があります。バランスよく集まっているのが強みです。浜野さんも、そのことを力強く話しています。そうした企業を減らさないように、努力していかなければいけません。
工場の音や臭いについても、近所の方にある程度理解してもらわないと、企業が出ていってしまうことがあります。信用金庫も、地域の企業と共存しながら、支援していかなければいけないと思っています。
すみだ経済新聞──事業承継については、どのような状況でしょうか。
中田さん:難しいですね。技術があっても、事業承継ができずに廃業する企業があります。
自分の代のことだけを考えて、株を売ってお金に換えるという考え方もあるでしょう。ただ、事業を継続することを考えれば、引き継ぐ人は家族でなくてもいい。従業員でも、第三者でもいいかもしれません。どういう形で続けていくのかを考えることが大切だと思います。
まちとしては、北部の活性化も課題ですね。商店街や道路、建物が密集している地域をどうしていくのか。地域ごと、業種ごとに課題がありますから、一つずつ、少しずつでも解決していく必要があります。
感謝から一日を始め、原点に戻る
すみだ経済新聞──毎日続けている習慣はありますか。
中田さん:神様と仏様に感謝して、家族にも感謝して、一日を始めます。金庫の自分の部屋にも、おまつりしています。
「こうしてください」「お願いします」と、自分の希望ばかり言っていては駄目ですよね。まず感謝して、「頑張ります」と誓ってから始めるんです。
何かある時だけお願いするのではなく、毎日続ける。実際にどんな成果があるかは分かりませんけれど、それで自分の気持ちが落ち着けば、いいじゃないですか。
すみだ経済新聞──会長となった今も、大切にしていることは何でしょうか。
中田さん:「原点に戻る」ということです。原点は「基本」であり、「反省」であり、「謙虚さ」でもある。そこから新しい出発や発想が生まれ、活路を見いだすことにもつながります。単純な言葉ですが、その意味するところは、とても重要で難しいですね。
故郷を出てきた時は、常識も何も分からない若造でした。それが周りの人に助けてもらって、何とかここまで生きてこられた。大学に行かせてもらったことも、仕事を続けてこられたことも、ありがたいと思っています。
仕事も、コツコツと積み重ねていくものです。結果としてお客さんの役に立てたら、良かったと思う。その気持ちは、これからも大切にしていきたいですね。

(取材・構成:森下八尋 / 監修:宮脇恒)
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