「人の可能性を引き出す力」
すみだ経済新聞:
子どもの頃はどんなことに興味があったんですか。
長尾円さん:
小学生の頃は宇宙飛行士になりたかったんです。
でも応募条件を調べたら、虫歯の治療歴があって難しいと知ってしまって(笑)。
それなら宇宙に一番近い空の仕事をしようと思ったんです。
さらに、いとこがANAの客室乗務員(CA)になったことや、父が船乗りとして海外を回っていたことも影響しました。
海外への憧れもありました。
すみだ経済新聞:
そこからCAを目指すようになったんですか。
長尾円さん:
そうですね。
中学3年生の頃には、将来はJALのCAになろうと決めていました。
進学先もそのために選びましたし、高校、短大、就職活動まで、自分の中では一本の線でつながっていました。
最大の壁は視力だった
すみだ経済新聞:
目標に向かう中で苦労したことはありましたか。
長尾円さん:
一番大きかったのは視力です。
裸眼視力が0.04しかありませんでした。
当時は裸眼0.1以上が応募条件だったので、かなり厳しい状況でした。
ただ、私はまず「CAになった後に視力が落ちたら飛べなくなるのか」を調べました。
すると、入社時の視力検査は裸眼視力が基準になっているものの、入社後は矯正視力1.0を満たしていれば保安要員として乗務に問題がないことが分かりました。
コンタクトレンズで矯正すれば職務は果たせる。
それが分かったことで、「では試験をどう突破するか」を考え始めました。
視力回復センターにも通いましたが、私の場合は乱視が強く、裸眼0.1は難しいと言われました。
それでも諦めたくなかったので、視力検査の仕組みを徹底的に調べ、自分の見え方の癖を分析しながら対策を重ねました。
結果としてJALとANAの両方から内定をいただくことができました。
セルフコーチングの原点
すみだ経済新聞:
その経験は今の仕事にもつながっているのでしょうか。
長尾円さん:
つながっていると思います。
当時から大学ノートにひたすら書いていました。
どうしたら目標を実現できるのか。
何が足りないのか。
何を準備すればいいのか。
調べて、考えて、試して、また考える。
ノートは3冊以上になっていたと思います。
今で言うセルフコーチングですね。
誰かに答えを教えてもらうのではなく、自分で考え、自分で答えを見つける。
その習慣は今の仕事にもつながっています。
人材育成との出会い
すみだ経済新聞:
その後はどのような道を歩んだのでしょうか。
長尾円さん:
JAL内定後から、CA受験スクールで事務や相談業務のアルバイトをしていました。
当時は年齢が高い順に入社する仕組みだったので、早生まれの短大卒だった私は同期の中で最後の入社でした。
入社まで時間があったこともあり、受験生の相談対応や事務業務を担当していました。
その経験を重ねる中で講師も任されるようになり、入社前には講師として教壇に立っていました。
まだ20歳でした。
すみだ経済新聞:
かなり早い時期から教える立場だったんですね。
長尾円さん:
そうですね。
ただ、そこで感じたのは、駄目出しだけでは人は成長しないということでした。
何が伝わっていないのか。
どうしたらその人の力を引き出せるのか。
年上の受験生を指導することもありましたが、相手の弱点を指摘するよりも、その人の良さや強みに目を向けた方が成長につながることを実感しました。
今のコーチングにつながる原点だったと思います。
コーチングとの出会い
すみだ経済新聞:
コーチングとの出会いについて教えてください。
長尾円さん:
JALでは約10年間、国際線のCAとして勤務し、その後インストラクターなども経験しました。
退職後はアメリカで生活し、帰国後に出会ったのがコーチングでした。
当時はまだ日本ではほとんど知られていない頃です。
でも私は、「これまで自分がやってきたことを体系化したものだ」と感じました。
人の話を聞き、その人自身も気付いていない可能性を引き出していく。
まさに自分がやりたかったことでした。
勉強会にも積極的に参加し、本格的に学び始めました。
mixiから始まったCA支援
すみだ経済新聞:
その後はどのような活動をされていたんですか。
長尾円さん:
当時はSNSの黎明期でした。
mixiでCAを目指す人向けのコミュニティーを立ち上げました。
地方に住んでいて相談相手がいない人も多かったんです。
私自身、受験生時代に先輩から話を聞けたことが大きな支えになっていたので、今度は自分がその役割を担えたらと思いました。
質問に答えたり、勉強会を開いたりしているうちに合格者が増えていきました。
最初に開催した少人数セミナーでは、参加した2人がそれぞれANAとマレーシア航空に合格しました。
そこから口コミで広がり、多くの受験生が参加してくれるようになりました。
商業出版へ
すみだ経済新聞:
活動がさらに広がっていったんですね。
長尾円さん:
そうですね。
活動を続けていたら出版プロデューサーの方から声を掛けていただきました。
自分では本を書くつもりはなかったので驚きましたが、商業出版という形で本を出すことになりました。
活動を続けていると、自分では想像していなかった扉が開くことがあるんだなと思いました。
CA面接合格メソッドへ
すみだ経済新聞:
現在も航空業界を目指す方の支援を続けているそうですね。
長尾円さん:
SNSが当たり前になった今は、情報があふれ過ぎている時代だと思っています。
本来であれば自分で考えて書くべきエントリーシートや、自分自身の強みを見つける前に、「受かるコツ」や「神業」のような情報に振り回されてしまう人も少なくありません。
その結果、自分を見失ったまま採用試験に臨み、ご縁がないまま何年も既卒採用に挑戦し続けている方もいます。
私は、その人自身から出てくる言葉の力を信じています。
自分の経験や思いを、自分の言葉で伝えることができれば、面接官にもその人の強みや素養は伝わると思っています。
長年サポートを続ける中で、多くの合格者を見てきました。
だからこそ、完璧な人だけが受かるわけではないことも知っています。
粗削りでも、自分らしい言葉で語れる人は強いんです。
コロナ禍を機に、企業研修でもオンラインで対面と同じようにできることがあると実感しました。
さらにオンラインならではのメリットも取り入れながら体系化し、事業として形にしたのが「CA面接合格メソッド」です。
企業研修や経営者支援と同じように、航空業界へのキャリア支援を通じても、人の可能性を後押しできるようなコミュニケーション支援を続けていきたいと思っています。
人の可能性を信じ、その人自身も気付いていない強みを引き出す。
長尾さんの現在の仕事の原点は、学生時代から続くセルフコーチングと人材育成の経験にあった。
後編では、人材育成から組織開発、そして経営者支援へと広がった現在の仕事について聞く。