特集

「すみだ活性化のキーパーソンが語る墨田と私」
久保田健一さん (後編)

原体験が未来をつくる 子どもたちと広げる地域の輪

前編では、立川三丁目の盆踊り再生と子ども太鼓の取り組みについて聞いた。
中編では、江戸時代から続く久保田家の歴史や、震災と戦災によって失われた地域の記憶について話を聞いた。

すみだ経済新聞:
後編では、「立川三丁遊び部」の活動や銚子との交流について伺います。
祭り以外にも、さまざまな活動をされていますね。

久保田健一さん:
そうですね。

今につながる大きなきっかけになったのは、とうもろこしでした。

すみだ経済新聞:
とうもろこしですか。

久保田健一さん:
ある日、知人から電話が掛かってきたんです。
「明日、とうもろこしが2トン東京に来るんだけど祭りで使える?」って。

すみだ経済新聞:
突然ですね。

久保田健一さん:
突然ですよ(笑)。
車の部品屋にかかってくる電話じゃないですよね(笑)
しかも祭りまで3週間くらいしかなかった。

普通なら断ると思います。

すみだ経済新聞:
それでも引き受けたんですね。

久保田健一さん:
面白そうだなと思いました。
どうやったら保存できるか調べて、声をかけたらみんな集まってくれそうで、和菓子屋さんの冷凍庫を借りられることになりました。

すみだ経済新聞:
実際にはどうしたのでしょうか。

久保田健一さん:
浅草橋のホテルまで受け取りに行きました。
行ってみたら、とうもろこしが山みたいにありました(笑)。

ちょうど農家の坂尾英彦さんのトラックの前に車が停まっていたので、積んじゃえと言うことで、僕の車に積めるだけ積んで持ち帰りました。

800本くらい積んだと思います。

すみだ経済新聞:
かなりの量ですね。

久保田健一さん:
そうですよね(笑)

持って帰ったら、町会館に30人くらい集まってくれて、みんなで一本一本ラップを巻いて冷凍したんです。

祭りまでに何とかしなきゃいけませんからね。

すみだ経済新聞:
祭りで販売したんですか。

久保田健一さん:
そうです。
そしたら評判が良かった。

祭りが終わった後も「あのとうもろこしおいしかったね」と何度も声を掛けてもらいました。

すみだ経済新聞:
うれしかったのでは。

久保田健一さん:
うれしかったですね。
でも作った農家さんがすごいんですよ。

だから、その声を届けたいと思いました。

すみだ経済新聞:
そこから銚子との交流が始まる。

久保田健一さん:
そうです。
そのキーパーソンがとうもろこしの現場で出会った坂尾さんでした。

アフロヘアがトレードマークの農家さんです。

すみだ経済新聞:
どんな印象でしたか。

久保田健一さん:
面白い方ですよ(笑)。
でも、それ以上に農業に対する考え方が印象的でした。

すみだ経済新聞:
そこから銚子へ行くようになった。

久保田健一さん:
はい。子どもたちも連れて畑へ行くようになりました。最初は、おいしいとうもろこしを作ってくれた農家さんに何かお返しがしたかったんです。収穫体験というより、農作業を手伝わせてもらう感覚でした。実際に畑に入って作業をすると、物の価値や生産者の苦労が見えてくるんです。

すみだ経済新聞:
例えばどんなことでしょうか。

久保田健一さん:
本来は食べられるのに出荷できない野菜ですね。
少し傷が付いていたり、形が違ったりするだけで流通に乗らない。
子どもたちはそういう現実を実際に見ます。

すみだ経済新聞:
食品ロスの問題にもつながりますね。

久保田健一さん:
そうですね。そうですね。坂尾さんは「生産地ロス」と言っています。
話で聞くのと、自分の目で見るのは全然違います。
例えば銚子に行くと、収穫したてのキャベツをそのままザクっと切って食べさせてくれる。
本当に甘くて美味しいんですよね。
スーパーで買ったキャベツでは味わえない体験ができたりする。

だから現場へ行く意味があると思っています。

すみだ経済新聞:
収穫だけでなく販売も経験しているそうですね。

久保田健一さん:
そうです。
自分たちで収穫したものをイベントやガレージで販売します。

子どもたちは、誰が作ったのか知っているし、どうやって育ったのかも知っている。
だから一生懸命、自分ごとで伝えるんです。

すみだ経済新聞:
祭りの取り組みとも共通するものを感じます。

久保田健一さん:
そうかもしれませんね。
私は「手伝って」とはあまり言いません。

まずは楽しむこと。
楽しいから人が集まる。
祭りもそうですし、こういう活動も同じだと思っています。

すみだ経済新聞:
青年部の運営の特徴はありますか。

久保田健一さん:
欠席理由を聞きません。

来られる時に来ればいい。
無理をすると続かなくなりますから。

長く関わってもらう方が大事だと思っています。

すみだ経済新聞:
久保田さんが目指している地域の姿とは。

久保田健一さん:
子どもが主役の地域ですね。
上級生が下級生を教える。
高校生や大学生が小学生の面倒を見る。

大人は少し後ろで見守る。
そんな循環が続いていけばいいなと思っています。

すみだ経済新聞:
最後に、久保田さんにとって地域活動とは何でしょうか。

久保田健一さん:
先祖から受け取ったものを次の世代へ渡していくことだと思います。
祖父たちから受け継いだ地域の記憶がある。

そして今の子どもたちには新しい思い出を作ってもらう。
祭りも、銚子との交流も、そのためにやっています。

(了)

(取材・構成:森下八尋 / 監修:宮脇恒)
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